「松と松食い虫の関係」を例に、説明しましょう。
松は、松ヤニという抵抗力(免疫力)によって、外敵から防御され、良い土壌からエネルギーを得た結果として健康に生きられます。ところが、土壌が酸性になり、栄養が少なくなって松ヤニが出なくなると、抵抗力を奪われ、松食い虫の侵入を許すことになります。こうなると松は枯れてしまいます。これを見ると、表面的な敵は、松食い虫です。この松食い虫(表面的な敵)をやっつけるのが、西洋医学のやり方です。
このやり方を人間と病気に置き換えると、病原菌におかされたので、その病原菌を殺そうという方法です。しかし、これでは原因治しということにはなりません。
これに対して、土壌のエネルギーの低下を改善し、酸性の土壌をアルカリ性にしたりして抵抗力(免疫力)を上げようとするのが、一般に東洋医学的な治療法です。
たとえば、インフルエンザを抗ウイルス薬で治療するのが西洋医学。西洋医学は、はっきりとした症状や原因が明らかな病気を薬で治す。高血圧症には降圧剤、感染症には抗菌薬や抗ウイルス薬、がんには抗がん剤と、その症状を薬で取り除く。病気の急性期や感染症治療などの治療には不可欠ともいえる治療法。
これに対し、東洋医学は身体が本来持っている自然治癒力を引き出し、症状を改善する医学です。検査をしても原因がはっきりしないけれど、体調不良や症状が続く場合などには、漢方薬の効果が期待できます。月経不順、胃腸虚弱、自律神経失調症、不定愁訴、更年期障害などに用いられるほか、術後のフォローなどにも処方されます。
漢方では、身体の状態を表す「証」というものがあり、漢方の処方では証を見極めることが重要になります。証には「実」と「虚」があり、「実」は体力が充実している人、「虚」は虚弱の人の事です。また、その中間型もあります。「実」と「虚」の人は、同じ症状だとしても服用すべき漢方薬は違います。この証を見極めるために、医師は四診と呼ばれる望(ボウ)・聞(ブン)・問(モン)・切(セツ)の診察を行います。望診は顔色や舌の状態を確認し、聞診は声の状態やにおいを診断します。問診は通常の診察と同様で症状の経過や生活習慣、睡眠、食事、便通、排尿の状態までヒアリングします。切診は体に直接触れる触診で、脈や腹の状態を診ます。四診の情報から患者の証を見極めて、適切な漢方を処方するのが本来の漢方の処方です。
証に合わない漢方薬を服用すれば、効果がないばかりか副作用などの可能性もあります。その指摘通り、漢方薬の効果効能だけで処方することは、危険をはらんでいます。
医療用漢方は、ひとつの症状に対しても複数の薬があり、証によって選ぶべき漢方薬が違います。多くの医師は、しっかりと診察し、証を見て患者にあった処方をしています。ただ、それでも診断した証が違う場合もあります。証に合った漢方薬であれば、服用し始めてから効果を感じるまで、そう時間はかかりません。あくまで一般論でしかありませんが、1~3カ月服用しても効果がなければ、処方の見直しが必要ではないかと思われます。
「漢方薬は危険」というのは誤解ですが、「漢方薬は安全」というのも誤解です。漢方薬を処方された際は、医師に証をどう見極めたかを聞いてみるのもいいと思います。