末期癌と闘われる方々への
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難病末期癌からの生還~タイトル画像小

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抗がん剤治療(化学療法)の限界と問題点とは

末期癌克服への架け橋区切り線

 
人類の誕生と同時期に始まった長い長い医学の歴史をふり返ってみれば、この20~30年間の進歩は、後世の歴史家なら「奇跡」と記すかもしれません。それほど、従来の治療法では治らなかったさまざまな疾病に対する治療法が驚くべき勢いで進歩し、病を克服してきました。その主役は、今世紀最大の「発明品」とも「魔法の弾丸」ともいわれる抗生物質です。数多くの抗生物質の開発・実用化によって、細菌やウイルスによる感染性疾患の大部分は終息を迎えたといっても差し支えないでしょう。かつてはきわめて完治のむずかしかった病気の大部分が、適切な治療を行えば治るようになったのです。これは50年前には考えられなかったことです。
 
しかし、たった一つ例外がありました。それは、癌です。癌に対して特効的に作用する物質は、未だに実用化されていません。実は、ここに抗癌剤開発の大きな落とし穴があったのです。つまり、抗生物質が感染症に有効だったように、癌にも有効な化学物質があるに違いないと思っていたのです。事実、感染性疾患に抗生物質を使うように、癌の治療にあたって腫瘍の専門家は、癌に対して化学療法剤、つまり抗癌剤を患者に投与してきました。ある種の抗癌剤に「有効性」が認められるのは事実です。ただし、それも「抗癌剤で体の中の癌細胞は一つ残らず消えていたが、患者の命も消えてしまった」と病理学者の間で皮肉が交わされるように、副作用という致命的な問題をはらんでいます。
 
そもそも、手術で取りきれなかった癌細胞部分を、薬剤でやっつけようという目的で、化学療法は始まりました。本格的な化学療法のスタートは1943年。第一次世界大戦で使われた有名なび爛性毒ガスのイペリットの製造技術を応用してつくられた「ナイトロジエン・マスタード」という薬剤が、アメリカのエール・癌センターで初めて使用されました。しかし、それはとても副作用が強く、成功には至りませんでした。その後も、さまざまな抗癌剤が登場しますが、結局、効果と副作用のシーソーゲームが延々と続くことになります。
 
化学療法剤(抗癌剤)は体の中に入ると細胞分裂を行っている細胞を破壊し、殺してしまう強力な薬品です。抗癌剤が正常細胞には働かずに、癌細胞だけをやっつけてくれるのであれば、こんなにいい治療法はほかにないでしょう。しかし、不幸にも、抗癌剤で破壊される細胞の約80%は癌細胞ですが、残りの20%は絶対に破壊してはならない正常な細胞なのです。この割合はせいぜいよく見積もっての数字であり、抗癌剤の細胞破壊は実際はもっと無差別で、それだけ患者は重い副作用と毒性に見舞われることになります。
 
例えば、抗癌剤の一つである「5-フルオロウラシル」(通称5-FU)の確認されている副作用症状をあげてみましょう。
 
「食欲不振、悪心、嘔吐、粘膜炎、脱毛、骨髄抑制、爪の変形、眼球の動きが自由にならなくなる、発疹、色素過剰症、運動失調、光感作、めまい、言語障害、心筋虚血、扁桃炎」などです。
 
では、5-FUが患者のNK細胞活性にどのような影響を与えるのでしょうか?実験の結果を見てみましょう。
 
3人の被験者から血液をとって試験管に入れ、まず投与前のNK細胞活性をそれぞれ測定します。次に5-FUを加えると、どの被験者のNK細胞活性も低下してしまいます。すなわち、5-FUは癌細胞を減らすのと同時に、NK細胞の活性も阻害してしまうのです。これでは癌との細胞戦争に勝つ確率が少なくなってしまいます。また、ここで注目したいのは、NK細胞活性は個人差が大きく、3人の被験者それぞれが異ります。
 
被験者1のもともと(投与前)のNK細胞活性は、被験者3と比較すると1/3以下しかありませんでした。癌細胞との厳しい闘いに勝つためには、どちらが有利であるかは一目瞭然でしょう。なぜなら、厳しい抗癌剤治療に耐えて癌細胞の数が減ったあとがNK細胞をはじめとする免疫細胞の出番だからです。NK細胞の活性が少しでも高く元気な方が、残った癌細胞との闘いに有利なのです。従って、癌の治療を行ううえで、患者の免疫力に注目することはとても大切なことです。
 
1970年代に入って開発された有名な抗癌剤「シスプラチン」も、抗癌剤の典型的な欠陥を持っていました。つまり、人間の骨髄でつくられる血球の数を減少させてしまうのです。赤血球が減ると呼吸困難、衰弱、はげしい疲労などの症状が出ますし、白血球が減れば別の感染症にかかる危険性が増え、血小板が減少すると出血が長時間続き、あざが目立つようになります。
 
癌が治るのであれば、抗癌剤の副作用がいくら激しくても我慢できると考えている人もいるでしょうが、それは間違っています。実際に抗癌剤治療を受けて、その副作用の重さを自ら体験すると、その問題の重要さがわかると思います。医療現場における、癌の苦しみとは、実は抗癌剤の副作用によるものが大部分です。そればかりか、癌細胞よりも先に患者の生命を奪ってしまうことだって珍しくありません。患者の多くは、癌への恐怖心から抗癌剤治療を1回受けてみようかという気持ちになり、受けてみるとその副作用にびっくりして考え直すというパターンがあるようです。だから、癌と闘うことよりもむしろ、副作用のあまりの辛さに耐えかねて、抗癌剤治療コースをやめてくれ、と要望する患者は日ごとに多くなっているのが現状ではないでしょうか。
 
 

 
最初の抗癌剤は毒ガス研究の過程で生まれたものだと前述しました。その後も、基本的には、なるべく強い毒物を抗癌剤として開発する研究が、今日まで続いていると理解していいでしょう。抗癌剤は要するに「細胞毒」です。すなわち、何らかの毒物を見つけては、癌細胞にその毒物が良く効くかどうかを調べていくということが、抗癌剤の開発ということになります。
 
抗癌剤は効きめ、性状などから、現在、おおむね次のように分類されています。
 

  • アルキル化剤
    アルキル基を導入するごとで細胞障害を発現させる化学合成物質

  • 代謝捨抗剤
    細胞の代謝過程に入り込んで、酵素に桔抗して細胞合成を阻害する化学物質

  • 抗腫瘍性抗生物質
    自然界の微生物から得られた抗生物質の中で抗癌性のあるもの

  • 抗腫瘍性アルカロイド剤
    細胞分裂を停止させ細胞障害を与える、植物から得られた細胞毒物質

  • ホルモン剤
    乳癌や前立腺癌など、ホルモン依存型の癌に有効とされるホルモン剤

 
 
ここで、副作用のことを考えてみましょう。抗癌剤はなぜ、正常細胞を傷つけずに、癌細胞だけをやっつけてくれないのでしょうか。それは、癌細胞とは元をたどれば、自分の正常細胞から生まれたものであるため、細胞の構造や、代謝・分裂の仕方などが同じだからです。それなら癌細胞と正常細胞との区別がつけばいいのではないかということから、癌細胞に特有の物質や特殊な代謝経路をさがす研究も行われましたが、結局、抗癌剤に応用できる相違点は見つからなかつたのです。つまり、抗癌剤には癌細胞と正常細胞の区別がつかないのです。
 
さらに、抗癌剤の作用の基本的な目的は、癌細胞の遺伝子を分断・破壊して、分裂を阻害することにありますが、厄介なことに、癌細胞の分裂・増殖の速度よりも、正常細胞のそれのほうがずっと活発なのです。おまけに、せっかく、抗癌剤が癌細胞の中に入っても、そのときに、癌細胞が分裂しようとしていなければ効果はありません。抗癌剤が細胞の外へ代謝して出ていってから分裂するケースもあります。
 
それに引きかえ、細胞が盛んに分裂・増殖している臓器や毛根、精・卵巣、骨髄、消化管、呼吸器、皮膚などは、抗癌剤の大きな影響をまともに受けてしまいます。すなわち、強い抗癌剤というのは、正常細胞も同時に殺してしまうということです。
 
 

 
残念ながら、多くの患者と医師の間には、「効く」という言葉の解釈で、大きな誤解と誤った認識があるようです。
 
一般の人が「効く」「治る」といった場合には、元どおりの体に戻って、元どおりの生活、行動ができるようになるということを意味するでしょう。ところが、医学の側に立てば、「効く」「治る」というのは生存期間の延びを判定する「5年生存率」「10年生存率」であり、腫瘍の縮小を基準にした「直接効果判定基準」というような「ものさし」であって、そこでは、患者が元どおりの社会生活や日常生活に戻れるかどうかはあまり問題にされていません。確かに、早期胃癌などでは、手術療法によって癌を切除して元どおりに復帰できる場合もありますが、抗癌剤治療で「抗癌剤が効く」という場合、生存率は延びるかもしれませんが、それと引きかえに副作用などの問題が前面に出てきてしまい、医師と患者の「効く」「治る」の考え方に大きな差が生じてしまいます。
 
抗癌剤で癌細胞が完全に消滅してしまうことは、一部の癌を除いてはきわめて稀まれなケースです。胃癌や肺癌、乳癌といった多くの「固形癌」に対しては、抗癌剤の効きめはあまり期待できないというのが世界の常識になっています。そうした状況での「効きめ」ですから、もしも、「癌細胞や腫瘍の消滅」を基準にしていたら、それこそ、かなりの抗癌剤は「効かない」ということになってしまいかねません。「5年生存率」は文字どおり、癌の治療を開始してから、5年間生き延びた割合を計算する「ものさし」ですが、「5年間」の中身は問われません。元気に社会で活動できた5年間か、副作用や癌の再発で苦しみ、病院のベッドの上で過ごした5年間か、は考慮に入れられません。とにかく、生きていればいいのです。
 
しかし、最近では、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)といって、患者さんの質的な生活を重視しながら治療を進めるという考え方が浸透しつつあります。癌の切除手術を受ければ寿命は延びるものの、体の自由がきかなくなるとか、抗癌剤治療で延命できても、その副作用で毎日苦しまなくてはいけないというのでは、だれのための医療かわかりません。これからの医療は、生活の質に重きをおき、生きがいのある人生を過ごしてもらうための手助けでなくてはなりません。
 
抗癌剤投与の難しさに関してもふれておきましょう。
 
抗癌剤は患者さんの副作用の限界まで、つまり”死なない程度に”なるべく多く、確実に投与するのが大原則です。癌細胞の生物学的な性格は非常に複雑で、全く同じ種類の癌でも、AさんとBさんでは、癌細胞の成長の仕方も、抗癌剤に対する反応もずいぶんと異なってきます。また、同じAさんの癌でも、初めての抗癌剤投与の際の反応と再発の治療のときでは、同じ抗癌剤でも反応が違って出てきます。
 
原則としては、白血病のように抗癌剤によく反応する癌から、胆嚢癌や食道癌のように反応しにくい癌まで様々です。ですが、反応する癌にしても、特定の抗癌剤の組み合わせに反応するのであって、それ以外の抗癌剤には反応しないという場合が多いのです。
 
一つの薬剤が癌を治すのではないことは知られています。癌は異なった細胞株からできているので、それぞれの細胞株はある種の抗癌剤には抵抗し、ある種の抗癌剤には反応するということが起こります。
 
従って、併用している一つの薬を中止してしまうと、一見、寛解したようにみえても、最後にはその薬のターゲットとなる癌細胞が増殖して再発してしまいます。
 
必ず起こる副作用についても、抗癌剤の種類によって様々で、様々な症状が様々な強さで出現します。この副作用の程度にも個人差があります。この個人差が厄介で、同じ抗癌剤で同じ量を投与したにも関わらず、どうにか耐えられる患者さんもいれば、耐えられずに亡くなられる患者さんもあります。
 
実は、抗癌剤の多くに関しては、結果的に癌細胞を増殖させる方向に働いてしまうばかりか、それ自体に発癌性があります。卵巣癌の化学療法剤による治療によって白血病を発症するリスクが高まるといった研究報告や、抗癌剤を取り扱う周辺で働くだけでも奇形児出産の原因となる可能性があるといったショッキングな研究報告は昔からありました。
 
癌はDNAの遺伝子に「傷」がついて起こる細胞の突然変異ですが、癌を殺すはずの抗癌剤にも遺伝子を傷つける働きがあります。従って、抗癌剤の多くには発癌性があるわけです。動物実験ではほとんどの抗癌剤の発癌性が証明されています。人間においても、小児癌、悪性リンパ腫、卵巣癌での抗癌剤投与により、治療後最初の10年で生存患者の5%から10%が白血病で死んでしまうというデータもあり、リスクが増えることは常識になっています。発癌性は抗癌剤の種類によってもある程度の差はあるようで、特に発癌性の強いものは、ナイトロジエン・マスタードなどのアルキル化剤系の抗癌剤といわれています。遺伝子を傷つけない抗癌剤もありますが、免疫力の低下は避けられませんから、その結果として発癌するということは十分に考えられるでしょう。
 
 

 
抗癌剤の副作用は、このように大きなデメリットを抱えていますが、もちろんメリットがあるからこそ、現在の癌治療において大きな分野を占めているわけです。副作用の悲惨さばかりが強調されて、その価値が覆い隠されることは、あってはならないと思います。
 
小児急性白血病、ウィルムス腫瘍、横紋筋肉腫、絨毛癌などには素晴らしい効果を期待することができるし、手術によって切除したけれども、目には見えない癌細胞がある可能性が高い場合には、それらを叩くために抗癌剤を投与することがあります。これは、補助的抗癌剤治療といわれるもので、再発を抑える治療としては非常に重要なものとなっています。
 
また、手術では取れないような癌の塊を、抗癌剤によって手術で切除できるような状態まで小さくしておいてから切除する、ということも行われております。
 
また、ひとつの抗癌剤で効果が出なくても、別の抗癌剤が有効に働くということがありますし、複数の抗癌剤をうまく組み合わせて投与することで、大きな効果をあげることもありますから、ひとつの抗癌剤が効かなかったからといって、抗癌剤は意味がないということはありません。ただし、最初は効果があった抗癌剤が、二回目には効果がなくなるということはよくありますので、投与方法やタイミングが大事だということがいえるでしょう。
 
 

 
なお、副作用に関しては、それを抑える薬や治療方法がさまざま生まれてきていますので、今後に期待したいところです。なかでもクロノテラピーという治療法は、副作用を抑える治療法としてかなり期待できるものです。日本で実践している医師は、平岩正樹医師をはじめとしてまだごく少数のようですが、抗癌剤治療に新たな可能性を感じさせるものがあります。これは『副作用のない抗癌剤治療』(平岩正樹著・二見書房)に詳しいのですが、抗癌剤を投与する時間を夜中にもってくることで、副作用を抑え、効果を高める治療法です。正常細胞の細胞分裂は通常、昼間が活発で夜は不活発になりますが、癌細胞は夜も昼も関係なく細胞分裂を活発に行っています。この違いを利用して、夜中に抗癌剤を投与するとどうなるか?正常細胞は細胞分裂が不活発ですから、正常細胞へのダメージはかなり少なくて済みます。いっぽう、癌細胞の細胞分裂は昼間と変わらず活発ですから、効果も高いというわけです。結果として副作用を抑え、効果を高めることができます。
 
もちろん、平岩医師は、クロノテラピーだけで副作用を抑えているわけではなく、いくつかの薬を投与することで有効に副作用を抑えているわけですが、このクロノテラピーが画期的なのは、癌治療を行う際の生活が、大きく変化する可能性が出てくることです。つまり、夜、寝ているあいだに抗癌剤を投与するから、昼間は自由な時間になる。そこで、副作用が少なく元気な状態であれば、普通の生活をすることができるというわけです。
 
実際、この治療を受けている患者さんたちの多くは、サラリーマンであれば昼間は会社に出かけて仕事をし、仕事をする必要のない人は好きな趣味に興じたりしています。そしてまた、夜、病院に戻ってきて、抗癌剤治療を受けるという生活です。ですから、見た目には普通の生活と同じわけです。いずれにしても、抗癌剤というのは諸刃の剣ですから、使い方次第といえます。
 

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