国立がん研究センターは9日付で、2008年に全国のがん診療連携拠点病院209施設でがんと診断された患者の5年生存率は65.2%だったと発表した。
うち188施設については、胃、大腸、肝臓、肺、乳房(女性)の5大がんの施設ごとの生存率をホームページ上に初めて掲載した。 集計対象は、厚生労働省が指定する拠点病院(15年時点で425施設)のうち、90%以上の患者の生死を把握できたなどの条件を満たす209施設。
08年に診断を受けた患者延べ約21万4500人が、5年後に生存していた率をまとめたところ、がん以外の原因での死亡の影響を除いた「相対生存率」は65.2%だった。
がんの部位別の生存率は、高い順に前立腺97.7%、女性乳房92.7%、子宮体部82.8%、子宮頸部(けいぶ)75.6%、大腸72.6%、ぼうこう71.2%、胃70.4%、食道43.4%、肺39.1%、肝臓38.5%、膵臓(すいぞう)9.9%だった。
拠点病院の生存率集計が発表されるのは、07年に診断されたがん全体と5大がんの値に続いて2回目。 患者から公表の要望が強い施設別生存率について、同センターは「がんが進行した患者を多く受け入れているなどの要因で大きく変わる。治療成績そのものを示すわけではない」と指摘し、各施設による見解や進行度別の患者数を併せて紹介した。
施設別の生存率は同センターのホームページ(http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/hosp_c_reg_surv.html)に掲載した。
国立がん研究センター(東京都)などは、血液1滴で乳がんなど13種類のがんを早期発見する新しい検査法を開発し、来月から臨床研究を始める。
※胃がん、乳がん、大腸がん、卵巣がん、食道がん、前立腺がん、膵臓がん、膀胱がん、肝臓がん、骨軟部腫瘍、胆道がん、神経膠腫、肺がんの計13種類。
同センターの研究倫理審査委員会が今月中旬、実施を許可した。早ければ3年以内に国に事業化の申請を行う。
一度に複数の種類のがんを早期発見できる検査法はこれまでなく、人間ドックなどに導入されれば、がんによる死亡を減らせる可能性がある。
検査法では、細胞から血液中に分泌される、遺伝子の働きを調節する微小物質「マイクロRNA」を活用する。がん細胞と正常な細胞ではマイクロRNAの種類が異なり、一定期間分解されない。
同センターや検査技術を持つ東レなどは、がん患者ら約4万人の保存血液から、乳房や肺、胃、大腸、食道、肝臓、膵臓(すいぞう)など13種類のがんで、それぞれ固有のマイクロRNAを特定した。血液1滴で、がんの「病期(ステージ)」が比較的早い「1期」を含め、すべてのがんで95%以上の確率で診断できた。乳がんは97%だった。
島津製作所(京都市)が開発した高精度の質量分析計を使い、早期の大腸がんを9割以上の高い確率で発見できる検査方法を開発したと、神戸大や同社などの研究チームが発表した。
年内にも京都市内の病院で一般の受診者に試験運用して、有効性を確かめる。
研究チームによると、質量分析計は、同社独自の技術で物質を1000兆分の1グラムのレベルまで高い精度で計測できる。この分析計で血液検査を行い、大腸がんの指標となるアミノ酸など8種類の物質が含まれている量を分析する。分析は数滴の血液で可能という。
早期の大腸がん患者300人に検査したところ、9割を超える精度で早期がんを確認できた。同時に血液中の「腫瘍マーカー」を使う従来の血液検査も実施したところ、発見率は1~2割にとどまったという。
最適な分子標的治療薬を選定する
がんは遺伝子の病気です。正常な細胞の遺伝子に異常や変異が起き、それが積み重なってがん細胞となり、やがて目に見えるがんになります。
通常はがんと診断された場合、病巣がある部位によって乳がん、大腸がんなどと呼ばれます。その病状を見て、化学療法(抗がん剤治療)、外科手術、放射線治療などの治療が行われます。
こうした従来の臓器別の診断ではなく、遺伝子変異別に診断し、適切な治療を行うのが、がん個別化治療です。通常の抗がん剤が効かなくなったがんや手術が困難ながん、進行した肺がん、乳がん、大腸がんなどの患者の遺伝子の変異を調べることで、別のがんの治療に使われている分子標的治療薬が効果を発揮する可能性があるからです。それによって、個々の患者に最適な治療が行えると考えられています。
その遺伝子の変異がどこにあり、またどのような変異なのかを独自に開発したソフトを活用したシステムで大量のデータを解析し、治療薬として最適な分子標的治療薬の候補を医師に対して提示するのが三菱スペース・ソフトウエアの役割です。実際には北海道大学病院の「がん遺伝子診断部」と連携して2016年4月よりがん遺伝子配列のデータ解析を開始しています。
これまではがん遺伝子を1個ずつ調べていましたが、がん遺伝子解析システムを使えば、迅速に160個以上のがん遺伝子の変異が同時にわかります。ヒトの全遺伝子は約2万~3万個と言われており、がん関連遺伝子は約600個とされています。すでに特定の遺伝子の異常を標的とした分子標的治療薬は現在90~100種類ほどあり、治療薬選択の対象となる遺伝子は50個程度あります。
それではがん遺伝子診断は、どのような手順で行われているのか説明しましょう。
まず、担当医師が患者に対して、がん遺伝子診断の概要を説明し、同意を得ます。次にがんのサンプルと血液からDNAが抽出され、次世代シークエンサーで解析を行った結果、変異を起こしていると予測される遺伝子が絞り込まれます。
そのシークエンスデータと呼ばれるものが、わが社に送られてきます。そのデータを解析し、変異部分を検出、さらに、がん細胞の増殖に関与している遺伝子変異(ドライバー遺伝子変異)に基づく分子標的治療薬の候補を選定します。分子標的治療薬は、がん化した細胞だけを狙い撃ちにする薬剤であるのに対し、従来の抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)はがん細胞以外の正常な細胞にも影響を与え、副作用も重篤なものがありました。しかし、がん細胞の増殖・転移に関わる分子を探し、それらを標的として効率的にたたけば、がん細胞も死滅・抑制できるのではないかと考え、開発された薬が分子標的治療薬です。
それらの有効性が期待される分子標的治療薬を選定した結果をレポートにまとめ、病院に送ります。結果は約2週間でわかります。その後、病院側で各科から構成されるチームカンファレンスで治療方針を決定し、診断書を作成します。それをもとにして患者さんにがん遺伝子診断結果を説明し、投薬・治療を行うことになります。
もともと三菱スペース・ソフトウエアは20年以上前から、遺伝子情報のデータ解析に参入していました。以来、高精度なデータ解析を蓄積して、今回、国内で承認された分子標的治療薬の組み合わせを解析できるアルゴリズムとソフトウエアを完成させたのです。
現在、北海道大学病院のほか、帯広にある北斗病院でも、がん遺伝子診断が行われています。費用は保険適応外で自己負担になりますが、25個のがん遺伝子を調べる検査が約42万円、160個の遺伝子を調べるのが約65万円かかります。
福井大は子宮体がんのホルモン療法の治療効果を画像で診断することに成功したと発表した。これまでは腰椎に麻酔をした上で、棒状の器具を使い子宮内膜から検体を採取し、効果を判定していた。新たな方法では、薬剤を注射し画像を撮影すれば効果の確認が可能で、患者の子宮を傷つけるリスクを減らすことができるという。
研究チームのリーダー吉田好雄教授(産科婦人科学)によると、早期の子宮体がんは女性ホルモンの一つ「エストロゲン」の受容体が多く、エストロゲンと構造が同じ放射性薬剤を腕に注射すると、がん細胞に付いている受容体と結合。陽電子放射断層撮影(PET)で撮影すれば、がん細胞と結合した薬剤が光るため治療効果が分かるという。効果があれば光らなくなる。これまで副作用は確認されていない。
日本婦人科腫瘍学会はガイドラインで、患者が子宮温存を強く希望する場合、エストロゲンの量を減らしてがんの肥大化を抑える「黄体ホルモン療法」を推奨。治療効果の判定には、少なくとも3回は約20センチの棒状器具で子宮内膜を削り、組織を集めて確認する必要があったが、子宮を傷つけたり、血栓症になる可能性が高くなったりする問題が指摘されていた。画像診断を用いればこうした検体の採取は1回で済み、患者の負担は減る。
この画像診断を受けた関西地方の女性(29)は、23日に女児を無事出産。記者会見で「がんと聞き、ショックでたくさん涙を流した。出産できてとてもうれしい」と語った。
福井大によると、子宮体がんは約8割がエストロゲンの影響で発症。毎年約1万4000人が新たにがんと診断されている。
乳がんの発見に有効なマンモグラフィで問題が発見された場合、一般的には乳房生検が行われる。しかし、この生検は往々にして不必要であり、コンピューターの力を借りれば劇的に減らせるかもしれないとAI(人工知能)の研究グループは主張する。
ヒューストン・メソジスト病院は2016年8月29日、マンモグラフィの結果を人間の30倍も速く99%の正確さで解釈できるAIソフトウェアを開発したと医療ジャーナル「Cancer」で発表した。このソフトウェアは患者のカルテを医師が検討するための診断情報に瞬時に置き換え、がんのリスクやさらなる検査の必要性を判断するのに必要な、信頼性の高いサポートを短時間で提供できる。
研究チームは、このソフトウェアが乳がんのリスクをどれだけ評価できるか判断するために、乳がん患者500人分のマンモグラフィの結果と病理報告書、乳がんのサブタイプに関する診断情報や相関性のあるマンモグラフィの結果をAIに提供した。その結果、臨床医2人は50人分を検討するのに50~70時間かかったのに対し、AIはわずか数時間で全員分のがんリスクを評価できたという。つまり医師の時間を大幅に節約できる可能性があるのだ。
乳がんのリスクを素早く判断するためには技術の力が必要だ。その例として研究者グループが挙げたのが米疾病対策センター(CDC)と米国がん協会が最近発表した統計だ。それによるとアメリカで行われている年間1,210万件のマンモグラフィの最大で半分が誤検出だという。
マンモグラフィの結果乳がんのリスクが3~95%とされた患者には高い頻度で生検が行われる。その数は年間160万件以上だが、20%は誤検出の結果行われた不必要な生検だという。
誤検出を減らし医療コストを削減
開発されたソフトウェアは上昇する医療コストの抑制にも有効だ。米国立がん研究所はそのコストが2020年までに年間1,580億ドル(約16兆円)を超えると試算している。調査会社Grand View Researchによると、検査デバイスの市場規模は2024年までに9億1,120万ドル(約938億円)に達する見込みだ。
一方でジョンズ・ホプキンズ大学の研究者も、最も一般的な非浸潤性の乳がんである非浸潤性乳管がんと診断された患者に対する不必要な乳房生検により、年間3,500万ドル(約36億円)が無駄になっている可能性があると指摘する。
今回開発されたソフトウェアによって医師が乳がんのリスクを診断する方法や生検を推奨する手順が改善され、不必要な生検が減ることを研究チームは願っている。ヒューストン・メソジスト・リサーチ・インスティチュートのシステム医療学部の部長であり報告書の共同リーダーを務めたステファン・T・ウォン(Stephen T. Wong)は以下のようにプレスリリースでつづっている。
「このソフトウェアはわずかな時間で数百万件の記録を評価する。それにより、我々がマンモグラフィを使って乳がんリスクをより効果的に評価することを実現します。さらに不必要な生検を減らす可能性も秘めています。これだけ多くのカルテを正確に評価することは、AIなしでは事実上不可能と言えます」
女性タレントの乳がん闘病中のニュースを聞き、「他人事ではない」と感じた女性は多い。その乳がん治療も最新治療が次々と開発されることによって、徐々に光明が見えてきた。最近、筆者がかつて取材した鹿児島県の医療機関から2016年、世界初となる「切らずに治す乳がん治療の実現」に大きな進展があったという朗報が届いたので、紹介してみたい。
痛みもキズ痕も生じない「命の洗濯」までできるがん治療!?
痛みも、キズ痕も生じない。その上、じっくりと「命の洗濯」までできてしまう乳がん治療が、もうじき実現するかもしれない――先日、そんな朗報が、『メディポリス国際陽子線治療センター(鹿児島県)』から届いた。
これがどのような意味を持つ事柄なのか、少し詳しく述べてみたい。
2016年6月11日、小林麻央さんが乳がんで闘病中であるというニュースを知った女性たちはみんな、「他人事ではない」と感じたのではないだろうか。かくいう私も6月中旬、自治体から絶妙のタイミングで届いた乳がん検診の無料クーポンを、これまでにないほどありがたく思った。
近年、日本では乳がんと診断される人の数が増えており、一生のうち、女性の12人に1人がかかるとも言われている。一方で、治療法の進歩により、ステージI~II期では5年生存率90%以上、10年生存率もステージⅡであれば80%近くに達している。
乳がんはもはや不治の病ではなく、年間9万人弱が罹患するものの7万5000人は生還し、化学療法や放射線治療を受けながら生きて抜いて行く時代になった。罹患経験者は「サバイバー」と呼ばれ、病と付き合いながらの人生を送ることから「手術を終えた後は、“糖尿病”や“高血圧”などと同じような“慢性疾患”だと思って」とアドバイスする医師もいるほどだ。
こうした動向と並行して、治療法もかつての「生命さえ助かれば、それ以上は望まない」的なものから、身体への負担はより小さく(低侵襲)、術後のQOL(生活の質)はより高くを目指す方向に変化している。
命もQOLも重視するイマドキのがん治療を象徴
メディポリス国際陽子線治療センター
東京ドーム77個分という広大な敷地に建つ『メディポリス国際陽子線治療センター』。地下一階の3分の2を占める巨大な陽子線治療装置を駆使し、年間400人近いがん患者を治療している(写真提供:メディポリス国際陽子線治療センター、以下の写真すべて同センター提供)
身近なところでは乳房再建(注「にゅうぼうさいけん」と読む。「ちぶささいけん」ではない)。2014年1月、再建用の人工乳房が全面保険適用になったのをきっかけに、乳房を全て切除してから乳房再建するケース(全摘+乳房再建)と乳房の一部を切除する温存手術の割合が逆転した。それまでは、治療のためとはいえ乳房を切除する喪失感は耐え難いと、温存手術を希望する人が多かった。
そこには、命と乳房を天秤にかけるような苦悩が存在していた。しかし、全摘と同時に再建できれば、喪失感をだいぶ和らげることができる。これは、命もQOLも重視する、イマドキのがん治療を象徴する出来事だと思う。
そして、これらの潮流の最先端にいるのが、メディポリス国際陽子線治療センターが提供している医療だ。
心臓の裏側の肺がんも治療できる陽子線治療の凄み
治療に要求されるエネルギーまで水素を加速させるための装置「シンクトロン」。同様の装置の中では最小級との事だが、それでも巨大だ。
陽子線は、陽子(水素の原子核)を光速の約70%まで加速させたもので、非常に高いエネルギーを有する。ターゲットであるがん細胞までの角度や距離等を細かく設定して、放たれた陽子線は、身体の中に入ってがん細胞にぶつかった途端、強いエネルギーを出して消滅する。身体の中を通り抜けてしまうX線と違って、周辺の正常な細胞や臓器にダメージを与えない。
つまり、ピンポイントでがん細胞を死滅させることができるのだ。また、どれほど身体の深い場所にあるがんでも、複雑な形をしていても、角度を360度細かく調整しながらの照射によって、致命的なダメージを与えられる。
「心臓の裏側にある肺がんを治療したこともあります。X線の場合、心臓を通り抜けて致命的なダメージを与えてしまうので、このようなケースでは治療できません。陽子線だからこそ可能な治療です」
こう話すのはセンター長の菱川良夫医師だ。陽子線治療なら、乳房を一切損なわない乳がん治療が可能になる。2011年の開院以来、同センターは、世界初となる「切らずに治す乳がん治療」の実現を目指し取り組みを続けてきたが、去る5月、4名の早期乳がん患者を対象に進めてきた治験の第一段階が終了。全員に良好な治療結果が得られたことから、その情報データを元に分析し、第二段階の準備を進めているという。まだ治験中なので「いつ頃までに実現する」とは言えないものの、大きな進展があったことは間違いない。
乳がん治療の最大の妨げは乳房の固定だった
これまで、同センターでは、以下のがんを対象に陽子線治療を行ってきた。
・頭頸部のがん
・頭蓋底のがん
・肺がん(原則、腫瘍は1個のみ)
・肝がん(原則、腫瘍は1個のみ)
・前立腺がん
・局所進行膵がん
・腎がん
など。
胃や大腸など消化管のがん、がんの数が複数あるものや複数のリンパ節に転移のあるがん、白血病のような血液がんには、陽子線治療が適さないため、行っていない。
体位変換装置
※同センターが開発した『体位変換装置』。 肺や心臓といった乳房の奥にある重要な臓器を保護するために、仰向けとうつ伏せの体位を自在に変化させて、最適な乳房の形状を簡単に再生できる(左)。肌色に見える人形の胸の部分に装着されているのが、3Dプリンターで作製された乳房固定カップ。仰向け状態でも、患者の乳房を常に同じ状態で、高精度に固定することが出来る。
乳がんに対しては、乳房の固定の難しさが、治療の最大の妨げとなってきた。陽子線治療は、がんに対してわずかなズレも許されない、超精密な治療法だ。それゆえ、治療には完璧な固定が絶対条件となるのだ。
「乳房以外の臓器は、いずれも骨格の中にあり、骨や周囲の臓器に動きを制限されますが、乳房は重力や呼吸の影響で形態が自在に変化するため、精密に狙いを定めるピンポイント照射が困難でした」と同センターの医療部長である有村健医師は解説する。
もちろん従来も、ブラジャーのようなカップを使って乳房を押さえつけたり、乳房を特殊な装置に吸引・吸着させ安定化を図ったりするなど、世界中で様々な試みがなされてきたが、変幻自在な乳房を、常に変わらない姿で固定することはできなかったのだという。
今回、有村医師らのチームは、先例とは全く異なる手法を用いて、乳房を固定することに成功した。
「固定の際、患者さんが上向きの場合乳房は胸壁に沿って横に流れ、肺や心臓に近づきます。この時は、臓器に対する危険性が増加します。逆に、患者さんを下向きにした場合、乳房は胸壁から離れ、臓器に対する安全性は向上しますが、呼吸や体動の影響を制御しにくい欠点がありました。そこで我々は、患者さんを下向きにして乳房を下垂させ、その形状を元に患者さん専用の乳房カップを3Dプリンターで製作し、突出した状態のままカップで保持された乳房を、患者さんが上向きの状態で再現し、治療することにしました。カップは常に乳房に密着し、さらに体動や呼吸の影響を受けにくい構造にしているので、他のがんと同等以上の精度を実現することが可能になりました」(有村医師)
「壮絶な闘病生活」とは異なり風光明媚な温泉地で癒やす
指宿ベイテラスHOTEL&SPA
センターに隣接する『指宿ベイテラス HOTEL&SPA』。小鳥がさえずり、四季折々の草花が咲く、広々とした敷地内を散策するだけでも、なかなかの運動量になるだろう
がん治療と聞いて、誰もが思い浮かべるのは「壮絶な闘病生活」だろう。だが、ここでの治療はぜんぜん違う。外科手術のように身体を切り開く必要もなければ、抗がん剤のような副作用もない。治療室入室から退室までの時間は20分ほど。痛みも熱さも感じない治療を終え、患者は自分の足で、元気に治療室から出てくる。
陽子線の照射は基本的に1日1回2分弱で、週5回。3週間~1ヵ月半の治療期間を要する。治療費は先進医療のため、技術料は全額自己負担で288万3000円かかるが、がん保険の先進特約に加入していれば、保険で全額カバーされる。ほとんどの患者が滞在するのは、センターに隣接する『指宿ベイテラス HOTEL&SPA』だが、車で20分ほどの距離には日本屈指の温泉地・指宿温泉があるので、老舗和風旅館に長逗留する患者も多いらしい。そこはまったくの自由だ。
指宿ベイサイドHOTEL&SPAスイートルーム
木をふんだんに使用した『指宿ベイサイド HOTEL&SPA』のスイートルーム。当然のことながら、殺風景な病院の部屋とはぜんぜん違う。
眼前には鹿児島湾、反対側には開聞岳が臨める風光明媚な山中で、ホテルの専任スタッフが育てた採れたて野菜や、契約している漁師から直接仕入れる魚介類などを使ったおいしい食事に舌鼓を打ち、温泉につかったり、ゴルフに出かけたりしながらのんびり過ごす日々は、昔ながらの「闘病」のイメージからは本当にほど遠い「命の洗濯」だ。敷地内には、小さな子どもを持つ患者のための保育所も完備されている。
寝食を忘れ働いていた人ががんになって生き方が変わる
今回、治験に参加したのは、59歳・49歳・63歳・56歳の女性4名で、基本、指宿ベイテラスに滞在し、温泉にゆっくり浸かりながらの治療だったが、中には、仕事をしながら通院治療し、仕事と治療を両立させていた女性もいたという。
患者にも家族にも人気の、森の中の貸切り温泉露天風呂
また、患者の中には、手術や抗がん剤治療の経験者もいたが、それらの治療に比べると、陽子線治療は痛みも全くなく、「とても楽で非常に良い治療期間を過ごせました」といった感想が寄せられたとのこと。がんそのものとの闘いよりも、治療に伴う苦痛や副作用との闘いとも言われるがん治療。センターが掲げる、リゾートライフを満喫し、心身共にリラックスして病気を治すというコンセプトは斬新だ。
「若くしてがんになる患者さんは、寝食を忘れて働いてきたような方が多いのですが、治療のために1ヵ月ほど休養をとり、家族と語らい、のんびり過ごす生活を送ると、生き方が変わりますね。みなさん『がんになったお陰で、自分をリセットできた』と言って、帰って行かれます」(菱川医師)
かつて私が子どもを出産したクリニックの院長は、ニコニコしながら教えてくれた。
「出産は命がけの大事業ですが、同時に、女性がより美しく生まれ変わるチャンスでもあります。骨盤が大きく開閉することで整い、ホルモンバランス等が良くなるし、体内の不要物が全部赤ちゃんと一緒に外に出されるので、素晴らしいデトックス効果もある。楽しみですね」
現在は苦しく長い乳がん治療も、今後の治験が終了して、早期乳がんの陽子線治療が実現し、さらに同センターのコンセプトが広まれば、「女性の人生をリフレッシュさせてくれるチャンス」と言われるように、近い将来なるかもしれない。
大腸の左右どちらに「大腸がん」の腫瘍が発生したかによって、生存期間が異なる――驚きの研究結果が、2016年6月3日から米シカゴで開催されている、米国臨床腫瘍学会の年次集会で、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のアラン・ヴェヌーク博士らによって発表された。
「大腸がん」はその名の通り大腸に発生するがんの総称。大腸は細かく「盲腸」「結腸」「直腸」「肛門」などにわけられるが、国立がん研究センターによると、日本人は「S状結腸」と「直腸」に腫瘍ができやすいという。
ヴェヌーク博士らは、すでに転移も起きている大腸がん患者1025人を、「盲腸」と「上行結腸」に腫瘍がある場合は「右側」、「下行結腸」「S状結腸」「直腸」に腫瘍がある場合は「左側」に分類し、2004年から追跡調査を実施。生存期間を比較している。
その結果、腫瘍が左側にある患者の生存期間は平均33.3か月だったのに対し、右側の患者は19.4か月となっていた。
さらに、がんを増殖させる分子だけを対象にした「分子標的治療薬」による治療を受けた場合でも、左側に腫瘍がある患者は平均36か月生存したが、右側の患者は16.7か月だった。
腫瘍の位置によって生存期間が変わる理由は不明だが、ヴェヌーク博士は、つながっている臓器や影響している部位によって、同じ大腸でも左右で環境や性質は異なるものであり、そこに発生する腫瘍も生物学的には異なるためではないか、と推測。
「何らかの要因で、予後が悪い大腸がんが右側に、よいがんは左側に発生する傾向があるようだ」とコメントし、将来的には、大腸がんの発生場所によって治療法を変える、といった手段が取られる可能性も示唆している。
学会での発表は、学術誌に掲載されるまでは 予備的な研究とみなされる。