2018年10月、本庶佑(ほんじょ・たすく)・京都大特別教授のノーベル医学生理学賞受賞決定を受けて、免疫の仕組みを使った「がん免疫療法」や小野薬品工業のがん治療薬「オプジーボ」が有名になりました。
まずはその最新の免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」について専門家の意見とともに概要を説明します。
かつてアメリカのジョンズ・ホプキンス大学に在籍し、オプジーボ開発前の基盤的研究に携わった国立がん研究センター・免疫療法開発分野長の吉村清氏が解説します。
「免疫というのは、病原体やがん細胞といった異物を排除する機能のことです。癌はジワジワと体の中でできていきます。そして、癌ができていく過程で、本来癌を攻撃すべき免疫機能が弱まって、癌の存在を許してしまうのです。つまり癌から『返り討ち』にあうのです」
病原体や癌などを攻撃する機能を担うのが、「キラーT細胞」と呼ばれる免疫細胞。体の中に癌ができると、「体内に癌という異物ができた」という信号を受けて、キラーT細胞は自動車のようにアクセルを踏んでがん細胞を攻撃しようと近づきます。
「ところが、がん細胞は非常に巧妙でキラーT細胞が近づいてくると、『攻撃の必要はない』という偽の信号を送って、攻撃の手をゆるめさせてしまうのです。このブレーキ作用が原因で癌は生き延びることができる。従来の免疫療法は、キラーT細胞のアクセル部分を強化させようという発想で作られてきました。ところがオプジーボは、『どんなにアクセルを踏んでもブレーキがかかっていれば動かない。ならばブレーキを外してしまおう』という発想で開発されたクスリです。その結果、今までとは段違いによく効く免疫薬が生まれました」(吉村氏)
キラーT細胞はPD-1、がん細胞はPD-L1というブレーキ役の分子を持っています。この二つが手を結んでしまうと免疫チェックポイントが働き、攻撃にブレーキがかかってしまう・・・
オプジーボはこの二つの分子が結合しないようにする抗PD-1抗体を含む。そのため、オプジーボが効くと、キラーT細胞は偽の信号に惑わされずブレーキが解除され、アクセル全開でがん細胞を攻撃することができるという仕組みです。
「免疫療法の有効性はこれまでずっと『眉唾もの』だと言われてきました。実際、効いていると思われる症例もありましたが、統計学的に有意な差がなかなか出てこなかった。それがこの3年ほどで、ようやく免疫療法が本当に効く時代がやってきました。手術、化学療法(抗がん剤)、放射線に次ぐがん治療の第4の柱として認められたのです。'13年には世界的な科学雑誌の『サイエンス』が、科学界における最も画期的な事象を決める『今年一番のブレイクスルー』に免疫療法を選び、一般的にも認知されるようになりました」(吉村氏)
まさに時代の最先端をいく新薬であるのは間違いない。だが、このクスリを開発し始めて実用化にいたるまでは15年という長い年月がかかっていて、当然、そのあいだに費やされた研究開発費は莫大なものになり、それが薬価に反映されオプジーボ使用に必要な治療費は莫大な金額になっています。
「オプジーボの国内販売価格は、100mgがワンボトルで73万円です。肺がんの場合、患者さんの体重1kgに対して3mgが必要になり、60kgの人であれば1回の投与あたりで180mg、約130万円の薬代がかかります。投与量は患者さんの体重とがんの種類によって大きく変わってきます」(小野薬品広報部)
仮に体重67kgの男性が2週間に1回、1年間の治療を続けた場合、かかる薬価は約3500万円にも及びます(2018年秋現在は薬価が下がり1000万円ほどになる模様)。
高額療養費制度があるため、個人がそのままの金額を支払うわけではないですが、差額は国民の健康保険料から支払われるため、それはそれで大問題となっています。
また一部メディアでは「オプジーボは夢の薬」「がんの特効薬」と煽っていますが、まだまだ効果は限定的と言わざるを得ないのが現実です。
例えば、死因第1位の肺がんでは、癌を小さくする効果がみられるのは患者の2~3割。普通の抗がん剤の奏効率とあまり変わりません。「副作用がほとんどない」とメディアでは言われているようですが、間質性肺炎や1型糖尿病など重い副作用が生じる恐れもあるのが現実です。
尚、2018年秋現在、オプジーボが対象としている癌は、悪性黒色腫(皮膚がんの一種)、肺がんの一種、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫頭頸部(とうけいぶ)がん、胃がん、悪性胸膜中皮腫。
現在、臨床試験中の主な癌は、尿路上皮がん、食道がん、肝細胞がん、膠芽腫(こうがしゅ)(脳腫瘍の一種)、一部の大腸がん。
まだまだ効果は限定的で、投与対象となる癌自体も少ないのが現状です。
しかし、今後の研究や治験が進み改良されていけば、対象となる癌が増えて、奏効率も高められるはずです。人類が癌を撲滅出来る日が一日も早くやって来るよう、オプジーボの今後の研究や改良に大きな期待をしたいと私は思っています。
上の説明でもありましたが、今までの免疫細胞を無理矢理増やそうとするがん免疫療法(血液を採取し免疫細胞を体外で培養する方法)では十分な効果が得られないケースが多かったのは事実で、今回、免疫細胞のブレーキを外すオプジーボの誕生は間違いなく新たな癌に対する攻撃にはなるはずです。
しかし、オプジーボが免疫細胞のブレーキを外すだけでは不十分であり、免疫細胞が強くなければ癌細胞との闘いに負けてしまいます。オプジーボ使用の場合も、免疫細胞の活性化は必ず必要になると私は思います。免疫細胞を活性化させて、免疫のブレーキを外せば、驚くほどの奏効率になる可能性を秘めていると思います。
以下、がん免疫療法の歴史を記します。
1990年のアメリカ合衆国議会の専門部会公聴会で、ある放射線治療の専門医が行った抗がん剤に関する証言は、全世界に強い衝撃を与えました。
「私は医師になって39年間、癌の治療にあたり、さまざまなケースをみてきたが、抗がん剤を中心とするガン治療は根本的にはなんの進歩も見いだせなかった。抗がん剤などの使用によって、むしろ生涯生存率は悪くなっている」と彼は証言したのです。
それまではアメリカ国立がん研究所では一貫して、「癌は早期発見さえすれば、現行治療で5年生存率は改善している」との公式見解を発表していましたが、その専門医の証言以後、しぶしぶながら、「ある種の癌に対しては、確かに、抗がん剤の限界はある。腫瘍を一時的に縮小させたとしても、結果的にみれば、延命効果にはなってはいない。PR(部分反応)では生存率は延長しないかもしれない。今後は、延命効果のある抗がん剤開発が急務である」という見解を示しています。
毒をもって毒を制す式の抗がん剤では、その「効果」よりも「副作用」のほうが深刻で、無視できないことは前に述べました。抗がん剤は癌細胞でない正常な細胞も大量に殺すだけに、免疫系をつかさどる白血球、リンパ球をも破壊してしまい、もし、健康な人が抗がん剤を使用すれば、かなりの高い確率で癌になると思われます。ガン患者の場合には、免疫力が著しく下がるために免疫不全症になり、感染症やほかの癌によって早期に死亡するリスクが高くなります。
欧米諸国のここ5年間の世論調査で、癌患者全体の33%が従来の治療法ではない別のガン治療法をさがし求めているとの結果が出たと知っても、さして驚くには当たりません。
従来の治療法は本質的な治療法の解決になっていないばかりか、抗がん剤を投与しても、それらからのがれた癌細胞は免疫系にダメージを与え、その結果、引き起こされる感染症や新たな癌におびえなければなりません。
このような従来の治療法とは別の、確かな効果があって副作用のない「夢の治療法」はないものでしようか。
多くの研究者と、ガン患者が期待を込める、手術療法、化学療法、放射線療法につづく「第四の療法」と呼ばれる「免疫療法」の話に移りましょう。
手術や化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法を行ったあとでもまだ体内にガン細胞が残っている場合に、その癌細胞を私たち人間が本来持っている免疫力で駆逐できないものか、と試みられたのが免疫療法です。とりあえず、これまでの化学療法、放射線療法などでがん細胞の絶対数を減らしておいてから免疫力を使うわけです。
抗がん剤などで一定の癌細胞を殺したあと、次の段階には、免疫力を強化すれば、手術や抗がん剤、放射線治療を行ったあとに、これらの治療法に耐性を持った癌細胞が体内に残ってしまうという問題はクリアできると思います。
新しく発生した癌細胞は、普通の健康状態の人ならば、免疫系のNK細胞やT細胞、マクロファージが活性化して、次々とつみとってくれているはずなのです。それにもかかわらず、癌細胞の中には、ストレス、喫煙、飲酒などで免疫力が落ちたときに、NK細胞やT細胞、マクロファージの監視をかいくぐり、分裂・増殖を繰り返していくものが出てきます。それがいつの間にか大きくなって、NK細胞やT細胞では対処しきれなくなってしまいます。
そうした癌細胞にどのように立ち向かっていけばいいのかという研究が世界中の学者によって行われてきました。
とりわけ、人間が本来持っている免疫力に注目が集められ、どうすれば免疫力を最大に高められるかという点に、あらゆる角度から研究がつづけられてきました。白血球やリンパ球の活性が低くなっている場合や、癌細胞と闘うにはあまりにも免疫系の活性が低い場合には、どのようにしたら免疫系の活性を高めることができるのでしょうか。それが解明されれば、ガンの予防になるばかりか、ガン治療の大きな柱になるでしょう。
そこで用いられるのがBRMという物質です。免疫療法を説明していくうえで必要な物質なので、ここで少しくわしくふれておきます。
BRM(Biological Response Modifier)とは、わかりやすくいえば、ガン細胞を直接殺しにいったり、ガン細胞を殺す免疫力に呼びかけて、免疫が持っている本来の力を間接的に呼び覚ます免疫調整物質のことです。
「NK細胞」「キラーT細胞」「マクロファージ」「多核白血球」などの活性化を主軸とする免疫系の活性は、このBRMによって引き上げることができます。
BRMを利用した免疫学的アプローチによってガン患者を治療するという可能性は、免疫学者や癌を専門とする生物学者の研究で、最近、急速な進歩と成果がみられるようになりました。
免疫療法が登場した当初は、まだ手さぐりの状態で、体の免疫能力全体を高めれば自然にガン治療に役立つのではないか、といった程度のものでした。
再び、免疫細胞を兵士におきかえて話を進めると、BRMはこの兵士の数をふやし、精鋭部隊に編成してくれる働きをします。
初期の免疫療法では、とにかく、この兵士の数をふやして、癌細胞という敵に向かわせてやれば、兵士が敵を攻撃して殺してしまうだろうと考えました。兵士にはNK細胞、キラーT細胞、マクロファージなどがいます。これらは、最前線で敵と銃撃戦を行う者、格闘技の技術にすぐれた者、連絡要員などにあたります。
■インターフェロンを使用した免疫療法
まず最初に登場したのが、「夢のがん特効薬」ともてはやされたインターフェロン(IFN)でした。
インターフェロンは、旧西ドイツのリンデマンとイギリスのアイザックが発見した、白血球の活性を促進するタンパク質です。インターフェロンは、体内で免疫力が高まった際にリンパ球が分泌するウイルス抑制因子(細胞傷害システム)を持っていることから、それを人工的に培養・合成させて体内に注射すれば免疫力が高まり、癌に効果があるのではないかというものでした。バイオテクノロジーの発達により、遺伝子を大腸菌の中に埋め込む方法でインターフェロンを大量につくることに成功したことから、期待はいっそう高まりました。
ところが、注射で体内に入れても、癌細胞は確かに一時的には縮小するのですが、完治までには至りません。手間のかかるわりには効果が十分ではありませんでした。
本来なら体の中で自然につくられるインターフェロンはごく少量で、当然、副作用などありません。ところが、バイオテクノロジーによってインターフェロンが体外でつくられたとしても100%のものはつくれず、たとえ1%でも不純物が含まれているものが体内に入ると、嘔吐、悪心、発熱などの副作用が生じることも大きな問題でした。
調べてみると、インターフェロンを投与した直後は、確かにNK細胞の活性はぐんと上がるのですが、その後、活性がぐんと落ちてしまうのです。これは、マクロファージがNK細胞の活性を抑制する働きをしている結果だということがわかりました。さらに、インターフェロンの投与によって、癌細胞がリンパ球の攻撃から身を守る「抵抗力」も身につけてしまっていたのです。
つまり、敵の防御力は強くなっているのに、兵士の攻撃力が弱まってしまい、結果的に癌細胞に有利に働いてしまうのです。
理論と現実は違うという点に、有効なBRMを開発するむずかしさがあります。
■サイトカイン療法
サイトカイン療法で使用された物質は、インターロイキン2、TNF(腫瘍壊死因子)などで、TNFは正常細胞を傷つけることがなく、癌細胞だけを攻撃する働きがあるといわれましたが、その働きがあまりにも複雑で、別の悪い影響が出てしまうことがわかり、インターフェロンと同じ運命をたどることになります。
インターフェロン、サイトカインまでをBRM第一世代とすれば、第一世代の時代には、癌の正体や、免疫がどのような働きをすれば癌細胞を殺せるか、といった基本的な事実が十分にわかっていなかったうえに、第一世代のBRMを使ったとしても、それらが癌に対して何をどういう形で作用するかが、はっきりとわかっていたわけではありませんでした。
これに対し、第二世代の時代になると、癌細胞を直接攻撃するリンパ球に対する研究がさらに進みます。相変わらず、敵の正体はぼんやりとはしていますが、輪郭はおぼろげながらも見えてきました。敵と闘うにふさわしい兵士が把握できましたし、兵士の武器や技術に関しての工夫や改良も可能になってきました。
25年以上前にアメリカのローゼンバーグ博士は、インターロイキン2を用いる新しい免疫療法を発見しました。それは、癌患者から血液をとり、リンパ球とインターロイキン2をいっしょにして5~7日間培養するというものでした。
しかし、この間に何が起こったかというと、インターロイキン2はNK細胞をLAK細胞(リンフォカイン活性キラー細胞)に変化させてしまったのです。そして、その血液を患者に注射しました。
マウス実験においては画期的な成果が得られていただけに期待は大きかったのですが、人間においてはいい結果がみられませんでした。
インターロイキン2とLAK細胞を投与した癌患者の臨床応用の過程で、発熱、肺水腫に加えて、たびたびショック症状を引き起こすケースがありました。疲労、食欲不振、悪心、下痢、黄疸などの複合的な副作用に患者は苦しみました。
C型肝炎が発症するリスクが高いという報告もあります。アメリカの6ヵ所の研究センターで、LAK療法を受けた患者のC型肝炎ウイルス感染率が最低で18%、最高で60%までにも達しました。
さらに、LAK療法においては、「キャピラリー・リークスーシンドローム」(毛細管漏出症候群)というきわめて不思議な症状を引き起こしたケースがありました。これは肺などの毛細血管から周辺に体液がしみ出して、周囲の組織へと拡散していく症状です。
もう一つ、この療法の欠点をあげておくと、コストがとても高くつくという点です。1週間入院して10万ドル(日本円約1200万円)必要になります。
このLAK療法の致命的欠点、つまり、攻撃相手を認識できないという点を改良した治療法が、TIL療法(がん組織浸潤リンパ球療法)というものですが、結論から述べると、これも効果はかんばしくありませんでした。
がん腫瘍にぴったりと浸潤しているリンパ球をインターロイキン2と培養すれば、そのリンパ球は確かに癌細胞を認識しているから、LAK細胞のように大暴れすることもなく、確実に癌細胞を攻撃するだろうというのが、TIL療法の考え方でした。実際、癌細胞を見つける能力は改善されましたが、今度は癌細胞を攻撃する力が弱まってしまったのです。結果は5~10%の癌細胞しかたたくことができませんでした。
以上の治療法は、いずれも活性化されたリンパ球を癌攻撃の武器に使ったもので、「養子免疫療法」と呼ばれますが、現在もこの療法を応用したさまざまな研究が続けられています。
このような試行錯誤の繰り返しの結果、教訓として得られた原則は、「確実で効果のある免疫療法が存在するとしたら、それは、自分の免疫系が自分で癌細胞を見つけ、そして殺すというメカニズム」だということです。
つまり、それはNK細胞のメカニズムにほかなりません。このNK細胞の活性が、癌治療とがん予防のたいせつなカギなのです。NK細胞を活性させ、副作用の苦しみから解放されたBRMこそが、多くの免疫研究者が日夜、さがし求めているものなのです。
そこで私は、副作用がなくNK細胞の活性を高めるBRMがないかと考えました。幸運なことに、活性ヘミセルロース化合物である医療機関向け免疫賦活物質が私の求めていたBRMだとわかり、喜びを隠せませんでした。
なぜなら、この医療機関向け免疫賦活物質は強力なBRMであり、NK細胞活性を飛躍的に高めるだけでなく、人間に対する毒性がないことが確認されているからです。
免疫療法(めんえきりょうほう)とは身体が自然に有している、疾患への防御機構への働きかけをコンセプトにしている治療法である。通常は局所あるいは全身の免疫系を賦活させることで治療する。私の父が実践した免疫賦活物質による免疫強化や現在アメリカで臨床試験が進んでいる次世代の光免疫療法なども、この「免疫療法」に含まれるものである。以下、ウィキペディアによる説明。
腫瘍学では免疫療法は最も研究が盛んな領域で、新しい癌治療法が見出されるものと期待されている。その考え方は免疫機構を刺激すること患者の免疫系が腫瘍細胞を攻撃させるすることに基づき疾病を治療するものである。
生物学的反応修飾剤(Biological Response Modifiers:BRM、生体応答調節剤)の一つとして使用されている丸山ワクチンは、現在、厚生労働省に手続きのうえ治験薬として使用されており延命効果や症例の報告が行われている。
免疫系は外界からの要素に応答する為に、自己と非自己を認識するという根本原理に直面する。しかし、多くの種類の腫瘍細胞は、癌の初期において自己の免疫系に大なり小なり寛容になっている。腫瘍細胞は基本的に患者自身の細胞であり、細胞の増殖、分裂、浸潤が患者の制御下にないということが違うだけなのである。
にも関わらず、多くの腫瘍細胞は、免疫系によって認識されることができる腫瘍特異的な抗原(例えば胎児性抗原)を提示している。多くの腫瘍細胞の表面に発現し、正常な細胞では稀かあるいは全く存在していない癌抗原は、免疫療法にうってつけの癌特異的な標的となる。
CTL、NK細胞、LAK細胞などの抗腫瘍効果を持つリンパ球を用いた免疫療法が研究されている。腫瘍抗原ペプチドなどにより患者を免疫する癌ワクチン療法から、その応用として癌ワクチンテーラーメード治療、ペプチド抗原や腫瘍細胞の遺伝子をウイルスに導入して生体に感染させるDNAワクチン、腫瘍細胞のRNAを利用したRNAワクチン、さらにサイトカインや抗原提示細胞としての樹状細胞を併用した治療などが考えられている。非特異的な免疫機能を高める物質を併用し、抗腫瘍効果を高める工夫もされており、今後臨床応用が期待される。
ある種の腫瘍細胞では、正常な細胞では稀かあるいは全く存在しない細胞表面受容体が提示されており、腫瘍細胞が制御されずに成長や分裂を引き起こすシグナル経路を賦活化する原因になっている。その例としてはErbB2受容体が挙げられる。ErbB2は乳癌の腫瘍細胞の表面には異常な高いレベルで産生されている。
抗体が、適応免疫反応(獲得免疫反応)(adaptive immune response)の1つの鍵となる。抗体は外来抗原を認識すると同時にそれ自身が免疫応答を刺激し、免疫反応の一方の主役を演じている。したがって、免疫療法では抗体を使用する対処方法が考えられた。モノクローナル抗体技術の出現で、癌表面に存在するような普通では見られない、特殊な抗原に対する抗体を産生することが可能になった。
ハーセプチン(Herceptin)はErbB2に対する抗体であり、乳癌の第一世代の免疫療法に用いられた薬剤の一つである。さらに、抗体は関節リュウマチなど他の疾患の免疫療法にも応用されている。レミケード(Remicade)がその例である。レミケードは腫瘍壊死因子に対する抗体で、腫瘍壊死因子は通常、関節リウマチの炎症に関連した症状を引き起こす一大原因となっているヒトのタンパク質である。
すでに第二世代の免疫療法剤の開発と臨床試験が進行中である。対象となる抗体は、一定の条件化で作用する疾病原因の抗原に対するものである。多くの場合では、その有効性は他の要素によって制限される。たとえば多くの癌において、その微小環境は免疫抑制的であり、癌患者が患者の癌組織に対して免疫応答をしても、異常抗原を発現している腫瘍は寛容されてしまう。
サイトカインのようなある種の分子の一団に属する分子が知られており、インターロイキン-2などが免疫応答を調節する要となっている。これらを抗体と併用して、殺細胞的な免疫応答を誘導するように協働させることが試みられている。一方で、このようなサイトカインを制御する治療法は、全身性の炎症を引き起こし重篤な副作用や毒性としてあらわれる可能性がある。
癌のような特殊な微環境下でも作用を発現する免疫刺激性サイトカインと抗体を結合させたキメラ分子が新世代の免疫療法剤として開発されている。この薬剤は腫瘍組織に対して局在的な免疫応答を引き起こし、不必要な副作用を起すことなく癌化した細胞を破壊する。
以上が、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』からの引用である。
免疫療法にも様々な種類があり、中には科学的な根拠がないもの、臨床試験がされていないものなども含まれているのが現状である。
現在「免疫療法」と言われて日本で一番一般的なものは、2000年頃から専門クリニックが増えて行われている方法のものを指す。これは患者の血液を採取して体外でNK細胞を培養して体内に戻す方法の免疫療法である。この免疫療法は、1クール費用がおよそ200-300万円かかるのが一般的。2クールをクリニックでは標準的に薦められるようなので400-600万円の高額な費用が必要となる。ただ、それだけの費用が掛かる割に奏効率は一般的な抗がん剤と変わらないのが現状のため、奏効率は5-20%程度(奏効率は完治率ではないので注意)。
実際、私宛にメールを下さる方でもこの免疫療法を試された方が多くおられるが良い効果を得られたと聞いたことがないのが実情。夢の治療法と呼ぶには程遠い。私も期待していた療法のひとつのため、この現実は残念でならない。ただ、効果が本当に得られるようになれば、間違いなく抗がん剤よりは患者に優しい治療法であるので、さらなる研究や改良で効果が上がる事を期待したい。
現在日本で一般的なこの免疫療法の弱点は、やはり癌細胞を認識できない弱った免疫細胞を患者から採取して培養を行うところにある。敵すら見分けられない、体力的にも弱った兵士を幾ら増やしても、当然戦争には勝てない。
自分の体の中で免疫細胞を強くして、貪食細胞であるマクロファージから癌細胞の情報を得て、獲得免疫細胞(T細胞、B細胞、NK細胞)と正しく情報をやり取りしながら身体全体の免疫機能が正しく機能しないと癌細胞は駆逐できないという事であると私は思う。
そういう意味では、丸山ワクチンや我が家が取り入れて父に効果を発揮した医療機関向け免疫賦活物質BRMによる免疫力強化は、体内で免疫細胞を強化し癌細胞の情報を共有しながら癌細胞を攻撃するため、非常に正しく免疫機能が機能し効果の期待できる免疫療法だと言えると思う。
2017年春開催の米国癌学会では、免疫療法とリキッドバイオプシーは中心的話題だった。日本において次期がん対策に関しては、残念ながらリキッドバイオプシーに対する反応は低かったし、「免疫療法」に対して批判的な声が消えないようだ。
※リキッドバイオプシー(liquid biopsy): 主にがんの領域で、血液などの体液サンプルによって診断、治療効果などの予測を行う技術
科学として免疫療法は確固たる位置を築いたことは明白。日本では、いい加減な免疫療法が広がることを問題視し、憂慮している人が少なくないようだが、欧米ではいろいろな免疫チェックポイントを対象とする治療薬や多種類の免疫療法の検証が進んでいる。「怪しい免疫療法が広がることを懸念して、まともな免疫療法を抑え込む」ことは非科学的な事。国際的な環境は「何かが起こる危険があるから、何もしない」といっているような悠長な状況ではない。「真っ当な免疫療法の科学的な妥当性を評価しつつ、怪しげな免疫療法を抑え込む」ことが、国・学会・医学研究者・医師を含む医療従事者の使命のはず。
嫌なもの、ゲテモノという視点で目を逸らしていても、似非免疫療法クリニックはなくならないし、患者さんや家族を不幸にするだけ。科学的な目を向ければ、国として取り組み、評価していくことは当然の流れだと思う。「可能性があるなら、それを科学的に評価していく」、これができないから日本の医療はこのようになったのだと私は思う。政治も、行政も、研究者も、現実に目を向けて、患者さんたちを救う手立てを考えて欲しいと願うばかりである。