その昔は、皮膚に存在する細胞の一種だと思われていました。ところが、T細胞が活動をはじめるのに不可欠な存在であることがわかってきました。
樹状細胞は長い突起をもつ、ヒトデのような形をした免疫細胞です。
皮膚の層には、細菌や刺激物を処理するラングルハンス細胞という樹状細胞の仲間が存在します。以前は、「ラングルハンス細胞=樹状細胞」だと思われていましたが、その正体が明らかにされはじめたのは90年代のこと。リンパ節に多く存在し、脾臓や肝臓などの各臓器、末梢血にもあって、免疫反応で重要な役割を演じていることが判明。現在では、多くの研究者が注目する細胞のひとつです。
樹状細胞は、抗原を提示してT細胞を刺激するエキスパート。効率よくT細胞の作用を導き出すといわれています。そこに至るまでにはいくつかの段階を経なければいけないので、順を追って説明しましょう。
- 樹状細胞は、骨髄のなかで幹細胞から分化。自己複製をしながら、前駆細胞をつくりだします。
- 前駆細胞は骨髄を離れ、血液にまじって全身の臓器に流れていきます。
- 各臓器に到着した樹状細胞は、「見張り番期」と呼ばれる段階になります。見張り番期の樹状細胞は、異物が侵入すると貪食。いよいよ戦闘の開始です。
- 各臓器に分布するマクロファージが同じように異物を貪食し、TNFというサイトカインを放出。樹状細胞のレセプターにTNFが結合すると、臓器を離れ、リンパ節に向かって移動をはじめます。
- 移動のあいだに、細胞表面にMHCクラスII抗原を発現します。リンパ節に到着すると、MHC抗原の上にのせた異物断片をヘルパーT細胞に提示。活性化させて、異物排除を誘導します。この段階を「抗原提示期」といいます。
抗原断片をMHC抗原にのせて、T細胞に提示する役割をもつ細胞を「抗原提示細胞」といいます。樹状細胞、マクロファージ、抗原と出会って活性化したB細胞、この3つが抗原提示の専門家。なかでも樹状細胞の力は抜群で、少数でも強力な反応を起こすことができます。そのため、あらゆる免疫反応の要として機能するのではないか、と考えられはじめました。
樹状細胞はもうひとつ、おもしろい役目をもつことがわかってきました。生まれたばかりのT細胞は胸腺で教育されますが、その際の試験官をしているのです。
T細胞が受ける試験は、「非自己に反応できるかどうか」と「自己に反応しないでいられるか」の2つ。前者を「正の選択」、後者を「負の選択」と呼びます。
樹状細胞は「負の選択」の担当教官です。つまり、樹状細胞がMHC抗原にのせた自己抗原(自己の組織や細胞)には反応せず、胸腺内皮細胞がかかげる非自己抗原を認識し、反応するT細胞だけが合格。免疫の最前線へとでていくわけです。
樹状細胞の本格的な研究がはじまってまだ30年。今後も新しい発見があるかもしれません。
●胸腺で丁細胞を試験する
●T細胞を効率よく働かせる
●リンパ節と各臓器の間を動きまわって伝令的な役割をする